聖の瞳が震えていた。
抱きしめたくて手を伸ばして。でも今触れたら聖は粉々になってしまうぐらい脆(もろ)い。
「倒れる母さんを見て俺はいつの間にか人間に戻ってた。そして冷たくなっていく母さんの手を握りながら何度も何度も謝って……」
「………」
「それでも母さんは『大丈夫だから』って笑ってた。いつか俺のことを理解してくれる人が現れるって。狼でも人間でも聖は聖だってこと忘れちゃダメだって。そう言ってくれる人が必ず見つかるからって……っ」
聖が言葉に詰まりながらもまだ涙を流さないから、私も泣くわけにはいかないと思った。
そして聖はその日の出来事を戒めのように心に刻んで、それ以来狼になることはなくなった。
不安定だったはずなのに自分を押し殺しながら10年間。
これが聖が狼にならない理由。
それで、狼になるのが怖い理由。
「俺は感情のまま狼になって母さんを死なせた。だからきっと俺はまた狼になっても制御できずに誰かを傷つける。それが……今も怖い」
そう言ってうつ向く聖に手を伸ばして、私はぎゅっとその手を握った。
ビックリするぐらい冷たい手だったけど少しでも温まるように強く、強く。



