聖が教えてくれる過去のひとつ、ひとつ。私は小さなことでも溢さないように必死で耳を傾けた。


「それでも母さんは俺を叱ることはなかった。
近所でヘンな目で見られても化け物を飼ってると町で噂になっても俺のせいにしない」

「………」

「隠して生きていかなきゃいけないなんて窮屈でごめんねって、いつも俺に謝ってた。そのせいで引っ越しも何度もして家族には迷惑かけてたと思う」

聖が少し間を空ける。どうしようか迷って、でも覚悟を決めたような顔。


「人前で狼になっちゃいけないんだと気づき始めていた7歳の時。引っ越した先で会った友達にホームパーティーをするから来ないかって誘われて」

「………」

「俺は母さんを連れて参加することになったけど、たくさんの同級生がいる前で俺は狼になった」

「え……」

「遊びたいオモチャの取り合い。喧嘩になって頭に血がのぼってそれで……」


聖の手に力が入ったのを私は見逃さない。