聖は黒髪の隙間から私をじっと見つめる。でもそれは狼なんかじゃなくて優しい人間の瞳。


「お前になら話してもいいよ」

そうニコリと笑ったあとで、過去を振り返るように聖が満天の星空を見上げた。


「前にも聞いたと思うけど母さんは人間だった。こんな俺たちを育てるのはすげー大変だったと思うけど俺が思い出すのはいつも笑っている顔。笑顔が絶えない優しい人だった」

まるで子どもに戻ったような聖の顔つき。だけどそれは次第に曇っていく。


「昔はさ、狼と人間の境目なんて分からなかった。ガキだったし遊びに夢中になると尻尾が生えたり髪が銀色になったり」

「………」

「思い通りにいかなくてモノを壊したり、間違って母さんを傷つけたりもした。俺は兄貴や晶よりずっと不安定だったから狼でいた時のほうが多かったかもしれない」