本当はどこかで気づいていた。

聖が狼にならない理由。そしてそれを閉じ込め続けているワケ。

だけどそれを聞きたいとは思わなかった。それぐらい聖にとって大きなものだと知っていたから。

それなのに……。


「なあ、そうだろ?母親が自分を守るために死んで。それから狼になることが怖くなったんだろ?」

「………」

「だからお前は……」


「……やめてっ!!」

霧島くんの言葉を遮ったのは私だった。


沸々と私の中でなにかが弾ける。

どんな理由があっても、どんな過去があっても、それをこんな形で口にしてほしくない。

しかもこんな人を見下すような言い方をするヤツだけには聖のことを語られたくない。

いつの間にか私は聖よりも前に出ていた。そしてそのまま霧島くんを睨み付ける。


「そんなことを影でコソコソと探って気持ち悪い。人が嫌がることばっかりしてなにが楽しいの?」

こんな感情は初めてかもしれない。

本当に本当に許せない。


「楽しいよ。自分以外は下等な生き物だからな」

「だったらアンタのほうがよっぽど下等なんじゃない?」

「なんだと?」

こんな睨みで怯んだりしない。


「どんな目的で私たちに突っかかってくるのか知らないけど楽しみたいだけなら他を当たって。
二度と私たちに近づかないで」

そう強い口調で言ったあと私は聖の手を掴んで「行こう」と廊下を歩き去った。