「ウタちゃんいつもありがとね、藍佑のこと」




ニコリと微笑みかけられてわたしは曖昧に笑った。

ありがとう、と言われるほど何かしてあげられているのか分からない。だってわたしは本当に、何もしていないんだもん。




「もう一年か、世間知らずだったのにウタちゃんのお陰で随分マトモになったよ」




遠くを見つめるように、わたしの奥の方を見つめるお兄様は何を思っているんだろう。

わたしはそれを知ることが出来ないから、やっぱりまた曖昧に笑った。




「ただ、毎日一緒に帰ってるだけですよ」




毎日手を繋いで、たまに寄り道して。A4のノートはわたしとの会話で埋まっていく。


A4のノートがアイの全てだった、その真っ白なページが文字で埋まっていくのを見ると、わたしはそれを征服している気分になる。

次のページを捲る音がした時、わたしはどうしようもなくどうしようもない気持ちになるんだ。

人の気持ちに敏感なアイだけど、きっとわたしのこの思いは知らない、気付かない、気付けない。




「ウタちゃんは簡単なことだと思っているかもしれないけど、そうじゃないよ。藍佑が喋れなくても他の人と変わらない扱いをしてくれる、それって難しいことだと思う」

「そう、ですかね」