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隣の席の新島は最近、大切にしている物がある。
「なぁ、お前また背中に付いてるよ」
「え?またやられた…」
そう言って背中に腕を回して取ったのは桜色のポストイット。四角じゃなくて花のような形をしたそれ。
またやられた、と言いつつ満更じゃない顔をしてそこに書かれている文字を見つめている。
「今度は何書いてあんの?」
「“好きだよ”だって。毎回直球すぎて呆れる」
「新島のダーリンは健気だな」
同じ教室の窓側の席に座るクラスメイトに視線を向ける。
今日も可愛いなこのやろ。同性なのにどうしてこうも違うのか、男にしては可愛い愛され顔の純粋ボーイ。
「いや、ダーリンじゃないし」
「じゃあ、何?」
「わたしにゾッコンなクラスメイト」
即答かよ、とツッコみつつ新島に視線を戻すと桜色のポストイットを丁寧に手帳に貼り付けている姿が見えた。
そこのページには他にも一言ずつ書かれた桜色のそれがたくさん貼り付けられていて花畑のようになっている。ゾッコンなのはお前もだろ。
俺は知っているのだ。授業中に手帳を開いて、その花畑みたいになっているページを悩ましげに見つめていることを。新島のスマホケースの中にもその桜色のポストイットが入っていて宝物のように大事にしていることを。
“新島にゾッコンなクラスメイト”は最近ポストイットにハマっているらしく何か一言書いたそれをコッソリ友人の背中に貼り付けるイタズラを覚えた。新島にだけ桜色の可愛いもので俺達には薄黄色の四角いやつ。
本当に可愛い健気なやつだ。それに新島は気付いているのだろうか。
誰から見ても仲が良い、誰から見ても両想いのはずなのに付き合わない理由は俺達からは1つだけのように見えて実はたくさんあるのかもしれない。