2年前の夏に置き去りにした声をぜんぶ取り戻すのはそんなに簡単なことじゃなかった。

はっきりとした声が出せたのはわたしが倒れた日だけで、その後はいつものように口をぱくぱくさせるだけで音が出てくることはない。

だけど、前よりもきちんとリハビリに通うようになったアイは、かすれ声から始まって夏休みが終わるころにはだいぶハッキリと声が出せるようになってきた。


わたしが死ぬほど大嫌いだったアイはもういない。

努力を続けるアイの姿を好きだと思う。その努力は、わたしに好きって言うためだって知ってるよ。

だけどね、アイ。わたしじゃなくて、愛情を注いで育ててくれたご両親とお兄さんにありがとうって言わなきゃだめだよ。




「ウタ」




夏にアイの声が響く。

わたしがその声を聞いてどれだけ心を震わせたか、アイは知らないでしょ。


ずっとずっとそうやって名前を呼んで欲しかったの。


きっと一生知らないでしょ。