ゆっくり、これでもかってくらいゆっくりと歩いた。二人分の小さな足音と、自転車のチェーンの音が混ざりあって何だか青春を感じる。風が吹いてスカートが揺れれば、アイがちょっと恥ずかしそうな顔をした。
えっち、ってからかえばもっと恥ずかしそうな顔をするから今度はわたしまで恥ずかしくなる。
自転車のハンドルを握る両手が汗で少し湿っていた。
今更だけど、どうしてわたしたちは仲良くなったんだっけ。考えても思い出せないのは本当に仲良しだからかもしれないね。
大嫌いな、藍佑と、仲良しなわたし。
相反するこの気持ちをどうすることもできなくて。だけどどうしようとも思わない。どうにか出来るのはきっと藍佑だけだよ。
「アイって、病院に住んでるわけじゃ無いんだよね」
尋ねると、コクコクと首を縦に振る。
「病院の近く?」
あ、あの高級住宅街でしょ。
そう言えば困ったように笑った。
アイはどうやら、お金持ちだとかお坊っちゃまだとか言われるのが嫌らしい。
「あそこの近くにコンビニってあると思うんだけど」
住宅街から大通りに出て少し行けば藍佑が知らないというコンビニがあるはずだ。
「今から行くんだから、知らなくてもいいか」
アイが知らないとしても今からそれを知ることが出来る。ずっと知らないままじゃないんだからいいじゃない。大丈夫、わたしが教えてあげるよ。
隣の喋れない男の子を見つめた、口角をゆるりとあげる、微笑んだ。
ありがとう、と口が動いた。
お願いだから、声を聞かせて。
「もうすぐだよ」