「それ、本気で言ってるの?」




丸く目を開いて驚くわたしに、曖昧に笑って困った顔を見せるアイ。困っているのはわたしの方だよ。

手にグッと力を入れた、じゃなきゃ自転車が倒れてしまいそう。自転車は倒れることは無かったのに、わたしの中の何かは確実にガシャンと音を立てて倒れた。それが何なのかはわたしには分からないけど、確実に何かが倒れて粉々になった。


困った顔をしてわたしを見下ろすアイの視線が、わたしの胸を突き刺す。

想像以上に狭い世界を生きていて、想像以上にお坊ちゃまなアイは、今どんな気持ちでわたしを見下ろしているんだろう。




「アイ」




楽しんで、と言った運転手さんのしわしわの笑顔を思い出す。


みんな、みんな、みんな。




「アイ、コンビニ行こうか、楽しいとこだよ」




藍佑の幸せだけを、願っているんだよ。

だからね、アイはみんなの為に当たり前に幸せにならなくちゃいけないんだよ。


アイを見上げて笑ったわたしに、一瞬驚いた顔をしたアイだけどすぐに嬉しそうに笑って大きく頷く。

そんな笑顔にわたしはなぜか分からないけどめげそうになった。