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当たり前だけど、わたしたちには初めて一緒に帰った日がある。
アイと初めて帰った、そのキッカケは何だったっけ。思い出せそうで思い出せなくて、だけど思い出したいとは思わない。
あの日、わたしたちは二人で校舎を出て、アイは校門の前に止まっていた高級車には乗らずにわたしの隣を歩いて帰った。
「楽しんで」
アイをいつも送迎している優しそうなおじいさん運転手さんに笑顔で言われて、わたしもアイも目を合わせた。お互い恥ずかしそうに笑ったことはハッキリと覚えているのに。それが春なのか夏なのか、秋なのか冬だったのか覚えていない。
それでも、あの日のことを覚えているんだからそれだけで十分だと思っているのはきっと藍佑も一緒だと思う。
「コンビニに寄って帰りたい」
その日、アイと帰ることなんて予想していなかったわたしは自転車を押して歩いていた。
左隣のアイに視線を向ける。わたしを見つめて、不思議そうに顔を傾けている姿が見えた。
聞こえなかったのかな、ともう一度同じことを言ってみてもその表情は変わらない。
少しの沈黙のあと、アイが持っていたA4のノートを開く、ペンを持った、スラスラと何か書き始める。
“コンビニって何?”
「、」
アイの世界は、想像する以上に狭かった。