◇
いつものように、朝ご飯を食べた。いつものように制服に着替えた。いつものように歩いて学校に行った。
いつものように、おはよう、ってクラスメイトに声をかけたのに、アイだけにはいつものように声がかけられない。それを見たクラスメイトが不思議そうにしていたけれど、やっぱりわたしはアイにただ、おはよう、って声をかけることが出来なかった。
きのう、わたしから逃げたアイを視界に入れるだけで涙が溢れそうになる。また逃げられたらどうしよう。陽炎みたいに消えていく藍佑を想像したくなくて視線を逸らす。
いつもと同じように笑っているアイをベッドの上で想像したきのう。逃げたりしてごめんね、って向こうからこっちに来てくれないかな。そんなことを考えるわたしはダメダメだ。
そうだよ、このままじゃダメだよ。そう思うのに体が思うように動かない。アイ、ってただそれだけの言葉を口にすればいいだけなのに何も出てこない。
“どうしたら好きになってくれるの”
“俺が喋れないから?”
悲しそうな表情を浮かべるアイがわたしを悲しそうに見つめているのが見えた。
もうそんな顔、二度とさせたくない。
息を吐く、唇を噛んで、ぐっと立ち上がる、ガタッと机の揺れる音がした。真ん中の列の後ろから2番目の席から、アイのいる窓際の列の真ん中を目指す。世界から比べたらちっぽけな教室、アイの席まで十秒。呼吸を止めて歩いた。
少し跳ねた襟足が愛しい、アイの瞳に映る自分をもう一度見つけたい。