高校3年生の6月。

梅雨も終わり、夏に向けて暑さが増してきた季節だった。

…けれど。

俺の心の中ははそれとは裏腹で。

まるで真っ暗闇の洞窟に、
たったひとり取り残されたように……冷え切っていた。

毎日「何か」におびえていた。

その「何か」は理解こそできていても、口に出して言葉にするのはためらわれた。

今思い返してみると、ただ単に自覚したくなったんだと思う。

俺は出遅れているって。

周りの友人たちはみんな順調に志望校を決めはじめ、的を絞った対策を始めていた。

そんななか、28人のクラスで、自分ひとりだけ、何も決まっていなかった。

自分が何者かさえも――…あのときの俺はわかっていなかった。


焦燥感とふがいない自分への怒りで、

心の中にはひたすら黒い感情が渦巻いていた。


いつしかそれらのどろどろとした感情の矛先は、

俺の全く望んでいない進路を押し付けてくる両親に対しても、

ついには友人たちにも向かっていた。

この前の模試が何点だったの、あそこの大学が何判定だったのと、
そんな話題が常に会話の中心だった。

そんなことしか話すことないの?

いつも内心で毒づいていた。



最後に「なぁ、真人は?芸大どんな感じ?」

と必ず自分に振られることもわかっている。

そう言う相手のの口元は必ずにやついているのだ。



そのたびに俺は、本心ではない適当なことを言ってはぐらかした。


とにかくふがいない自分。

周囲の期待に応えられない自分に腹が立って、

腹が立って、

そんな状態に俺は耐えられなかった。

毎日が吐きそうだった。



…この時期の高校生活は一言でいえば地獄だった。


家に帰るのも、だからと言って学校の教室で友人たちの話に耳を傾けるのも億劫だった。


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