「でも私、嫌じゃなかったよ」


「え……?」


言ってしまってから「あ…」と思う。
しまった。
心の中にしまっておくべきことを私は…


「あの!私、そういう経験全然なくて、本当にびっくりしっちゃたんだけど、でも、なんていうか、私…」

あはは、
ここまでくるといっそ笑える。
私何してるんだろう…
言ってしまった後でこんな言い訳じみたこと…

それに、真人くんも反応に困るよね…


…彼は驚いたようにじっと私を見据えていた。

「…ごめんなさい」

その瞬間、ぎゅっと抱きしめられる。

え…?

私今、真人くんの腕の中にいる…?
彼の体は思ったよりもずっと、男の人らしくがっしりしていた。

力が、強い。

ドクドクドク…

これ真人くんの心臓の音?

相手の鼓動までもがわかってしまうほどの密着度の高さに再び体がこわばる.

…でも。
なんていうのかな、こういうの。

彼の腕の中はすごい、落ち着く。
緊張するのも忘れてしまうくらいに…


あ。この香り香水じゃない。
石鹸?シャンプー?

お風呂上りなのかな?

私は無意識に目まぐるしくいろいろなことを考える。


「ごめん!オレ汗くさくない!?」

目の前に彼の顔。

「…大丈夫」

「えっと、なんだっけ。あっそうだ。
ごめんね、オレ連絡先も知らずに。……って謝ってばっかだねオレ」

すぐ近くに真人がいる。
照れくさそうに頬を緩めながら私を見ている。

「大丈夫!というか私こそごめんなさい。
先に帰っちゃって」

やっと謝ることができた。
ずっと気になっていたのだ。
ひどいことしちゃったなって。
傍から見たら、決死の言葉をすべて無視して逃げ帰ったのと同じなのだから。

それを聞いて真人くんは少し心の重りがとれたみたいだった。

この前みたいに、ふっと笑って言った。

「オレのアパート来ない?すぐ近くだから」