バカ、と蚊の鳴くような声で言えば、テルくんが意地悪そうな顔であたしを見つめる。
「……本当、ずるいよ」
「何が?」
「…言わない」
それだけはあたしからは言わない。
言ってしまったら最後だから。
例え、それがテルくんを解放する言葉だったとしても。
その言葉さえ言ってしまえば、テルくんはあたしから離れてしまうだろう。
それだけは、今はまだ言えなかった。
ごめんね、テルくん。あたし君の傍にいたいよ。小さい頃から解放してあげられなくてごめんね。
「……実衣、泣くなよ」
「泣いて…ないよ?」
「…嘘つき」
「テルくんこそ」
初めてテルくんと交わした口づけは―、一言では言い表せないほど切なくて冷たいものだった。

