170回、好きだと言ったら。




バカ、と蚊の鳴くような声で言えば、テルくんが意地悪そうな顔であたしを見つめる。


「……本当、ずるいよ」

「何が?」

「…言わない」


それだけはあたしからは言わない。


言ってしまったら最後だから。
例え、それがテルくんを解放する言葉だったとしても。

その言葉さえ言ってしまえば、テルくんはあたしから離れてしまうだろう。


それだけは、今はまだ言えなかった。

ごめんね、テルくん。あたし君の傍にいたいよ。小さい頃から解放してあげられなくてごめんね。


「……実衣、泣くなよ」

「泣いて…ないよ?」

「…嘘つき」

「テルくんこそ」


初めてテルくんと交わした口づけは―、一言では言い表せないほど切なくて冷たいものだった。