「実衣」


不意にテルくんの声が聞こえた。
顔をあげると、前を見ながらテルくんは口を動かせる。


「―…、だから…なよ……」

「え? 何て言ったの、テルくん…?」


風の音でで断片的にしか聞こえなかった。
もう一度聞き返してみたけれど、テルくんは運転に集中しているのか、それ以上は口を開かない。


「…テルくん」


その背中に涙を押し付けて。
あたしは口を開いた。



聞こえていないのならば、テルくんと約束した170日後の言葉を練習しよう。


「………す、」


き、と小さな声になってしまったが、ちゃんと声に出せた。
ほっと胸を撫で下ろして、ふと気づく。


…170日、どうしてテルくんはそんな事を言ったのか。あの時テルくんは病気を患っているのかと訊ねて、無言だったから肯定だと受け取った。


じゃあ、その170日って言うのは…テルくんにとってどんな意味を表すの?