一階に下りると、テルくんがカウンター前の椅子に腰掛けていた。
あたしが階段から下りてきたのをぼんやりと見て、周りに仲間がいるにも関わらず「実衣」と呼んだ。
「テルくん、髪ぼさぼさだよ?」
「……バイク走らせてきたからな」
「…苦しいところは?」
「…ねぇよ、帰んぞ」
「テルくん、ごめんなさい。黙ってて…。まさかあの人が飛澤さんの率いる族の人だとは思わなくて…」
あたしの言葉を聞いたテルくんは、そっぽを向いて「別に」とだけ呟いた。
立ち上がってあたしの手を握り締めると、仲間の人達が「お気をつけて!」と言うのを無視してその場を立ち去ろうとする。
あたしは一度立ち止まってお辞儀だけをすると、そのままテルくんの手に引かれながら店を後にした。

