「ありがとう」
ああ、よかった。
ちゃんと伝わったみたい。
「ううん、どういたしまして」
こんなわたしでも、たまにくらいは、人の役に立つことができるんだな。
そう思うと、やっぱり、どうにも嬉しいな。
今後、もし困ったことがあれば、きっとしばらくは前後の席だと思うし、ぜひ頼ってもらえたらいいな。
なんて。
本当にすごく嬉しかったから、うっかり心がふわふわして、ついずうずうしいことを思ってしまったのである。
「あの。わたし、木原なな子っていうの」
少し上体をひねり、後ろをふり返る。
久遠くんは驚いた様子を見せながらも、すぐに、またニコッと笑ってくれた。
「久遠くん、和菓子のきなこって知ってる? 木原なな子って、略すとね、きなこ、になるの。覚えやすいでしょう?」
自分で言いながら、ちょっと恥ずかしくなってくる。
“きなこ”なんてあだ名で呼ばれたことなんか一度もないし、実は、ふたつ年上の兄に幼い頃からかわれただけの、どちらかというと苦い思い出だ。
でも、ほんの少しでも、日本の文化に触れるきっかけになってくれたら、いいなと思って。



