それから、先生が新学期についてのアレコレを説明し始めたけれど、すぐに、わたしは背後が気になってしょうがなくなってしまった。


先生のトークも、配布されるプリントも、なにもかも、オール日本語。

でも、久遠くんってたしか、まだ日本語がそんなに得意ではないと言っていなかった?


そう気づいたとたん、いてもたってもいられなくなる。

そわそわしながらも、生まれながらの小心者なせいで、なかなか勇気がもてず、ふり返ることができない。

それに、わたしのほうは、日本語はそれなりにできても、英語にはまったく自信がないのだ。


どうしようかと迷いに迷っている途中、ちょんちょん、と控えめに肩を叩かれたのは、突然だった。


「木原さん、ごめんね。これ、なんて読むのか、教えて?」


声をひそめた久遠くんの左手には、わら半紙のプリント。

そして、その真ん中あたりを指している右手の人差し指の先には、“家庭基礎学習”と書いてあった。


「あ……えっとね、これは、“かてい・きそ・がくしゅう”だよ」

「キソ?」

「ええと、ごめん、ちょっと待ってね」


スクバの中から電子辞書を取り出し、和英辞典で、“基礎”を引く。

fundamental、basic、
目についた単語を取り急ぎ伝えるなり、久遠くんは目を輝かせてうなずいてくれた。