「ロンドンも雨の日が多いんだね」
「雨っていうか、どんよりした日が多い。ここまで毎日ザーザー降りの雨が続くことはあんまりなくて。降ったり、やんだり、降っても小雨だったり、みたいな」
「へえ! そうなんだ。知らなかった」
「よく虹がかかるんだよ」
そう言いつつ、キャラメルマキアートを飲んだ表情が、ぱっと明るくなる。たぶん、さっに抹茶ラテを飲んだわたしも、まったく同じ顔をしていたと思う。
ウマ、とひとりごとみたいにつぶやき、グラスを置くと、久遠くんは、おもむろに正面のガラスに指を伸ばしていった。
そして、むこう側にある地面から空へ、橋を架け渡すように、ゆるやかなアーチを指先で描いたのだった。
「ころころ天気が変わるからさ、雨が降ったかと思ったら晴れ間が差したりして、その隙に、虹がかかるんだ」
すっげえ綺麗なの、
と嬉しそうに話す、その姿があんまり綺麗で、うっかり見とれてしまう。
まるで、いま、わたしのほうがロンドンにワープして来ているかのような、不思議な感覚に陥る。
「いいなぁ。すっごく素敵な街で生まれ育ったんだね。いつか行ってみたい」
「遊びに来いよ。今年は俺、日本にいるけど、来年の夏休みとか。ぜんぜん、案内するし」
「ええっ、そんな、気軽な……! わたし、パスポートも持ってないのに」
「え、持ってねえの? 海外旅行は?」
「恥ずかしながら、日本を出国したことがないのです……」
久遠くんは目を丸くしつつ、ふうん、とうなずいた。
そして、身を乗りだしていた姿勢を正すと、今度はカウンターに頬杖をつき、首を傾げながら、ゆっくりとわたしのほうへ視線を移した。



