たとえば、学校の図書室とか、空き教室とか。
そんな“放課後の勉強会”のテンプレートを、久遠彩芭くんというスペシャルな男の子は、やはり、なぞらないみたいだ。
校門をぬけ、水分を吸いとったアスファルトを、ふたり分の靴底で撫でながら歩いた。
晴れ間さえ見えているというのに、梅雨どきの日本列島は、常にどこか湿ったにおいがしている。
やがて、久遠くんが足を止めたのは、お洒落な建物の前だった。
「あ……ここ」
その外観を見上げながら、思わず声が漏れてしまう。
「きなこちゃん、知ってる?」
「うん、あのね、一回も入ったことはないんだけど。でも、通りかかるたびに、行ってみたいなぁっていつも思ってたところなの」
「マジ? 実は俺も、ずっと入ってみたいと思ってたんだよね」
駅まで続く大通り沿いにある、ブックカフェ。
歩道側の全面がガラス張りなので、店内がよく見えるのだけど、内装も、レイアウトも、ドリンクも、フードも、外からパッと見ただけで全部が完璧にお洒落で、通りがかるたびにすごく気になっては、ひそかにずっと憧れていたのだ。
でも、だからこそ、こんなわたしには場違いな気がして、入る勇気がもてなかったお店でもあるわけで……。
「じゃ、行こう」
けれど、もちろん、こちらの複雑な気持ちになど見向きもせず、久遠くんはウキウキを隠しきれない様子で、さっさと入店してしまったのだった。
あわてて、背中を追いかける。



