「で、久遠の席は、あそこ。かきくけこ、の順番で、木原の後ろな」
いきなり名前を呼ばれて、思わず背筋が伸びる。
先生がこちらをまっすぐ指さすので、その先をたどっていた久遠くんと、ばっちり視線がぶつかった。
おかげでもっと、背筋が伸びてしまう。
ハイ、と返事をした久遠くんが、軽やかな足取りでこちらへ近づいてくる。
どんどん、どんどん、距離が縮まる。
天然物の金髪というのを、生まれてはじめて、生で見た。
あまりにも綺麗だから、苦しいくらいに胸が高鳴っているのに、そうだからこそ、一瞬も目を離せないのが、すごく不思議な感覚だった。
やがて、わたしの机のすぐ横を通過しようとしたとき、久遠くんは、なぜか音もなく足を止めたのだった。
「えーと……きはら、さん?」
「えっ! は、はいっ」
降ってきた声に、条件反射でがばりと顔を上げる。
彼は、思ったよりもずっと近い場所に立っていたので、椅子ごとひっくり返りそうになってしまった。
「ヨロシク」
それは、もう、殺人級の、微笑みだった。
たった、一瞬。
ほんの一瞬、ニコッとしただけなのに。
「……あ、っよろしくお願いします!」
教室中に響き渡るくらいの、バカデカイ声。
紳士の国で生まれ育った美しい転校生は、ちいさく笑うと、わたしのすぐ後ろの席に、静かに腰かけた。



