「はじめまして、こんにちは。ぼく、久遠彩芭です。この春、2年1組に転校してきました」
「ああ、どうも。7組の織部っていいます。久遠彩芭くん、いろんなところから噂は届いてきてるよ。それと、聞くところによると、なながいつもお世話になってるみたいで」
「……“なな”?」
「え? ああ、この子。木原なな子だから、“なな”って呼んでるんだ。聞いてない? 俺たち、幼なじみで」
「……ふーん」
久遠くんは、くちびるを尖らせながら、目線を下げ、顎を突き出すようにして、何度かうなずいた。
「聞いてない。知らなかったです」
そして、チラリと横目でこちらを見たので、反射的に視線を返すと、それをジトリと細めたのだった。
たしかに、久遠くんに柊くんの話をしたことは、これまで一度もなかったかもしれない。
そんな無言の応酬をしていると、ふと、柊くんがスマホに目を落とし、「やべ、友達待たせてんだ」と呟く。
「じゃあ、なな。きょう家寄るから、そのつもりでいて。一緒に帰るだろ?」
「あ、そっか、部活ないんだもんね」
「うん。また、下駄箱で」
「本当にありがとう、柊くん、ごめんね」
「いいって。俺もついでに、悟朗くんに会いたいしさ」



