「久遠くん……どうしたの?」
「どうしたの、って。そろそろ駅に戻らないといけない時間でしょ? 迎えに来たんだよ」
「え……朝香ちゃん、は?」
「他の人が連れて行ってくれたよ。ぼくがついてるより絶対、安心だと思う」
「ええ……?」
なんということなの。
なにも知らないとはいえ、久遠彩芭くん、あなたはいったいなにをしているの。
それじゃあ、わたしが立てた計画は、全部パーになってしまったということだ。
「だから、木原さんは、ぼくと行こう」
一方的に話をまとめ、わたしの手を取ろうとした久遠くんが、なぜか一度それを引っこめた。
そして、最初から気づいていたくせに、いかにも、たったいま存在を認識したかのようなしぐさで、柊くんのほうへ視線をむけたのだった。
え――と、思う。
一瞬、まるで柊くんを精査しているみたいに、久遠くんの眼光が鋭くなったように見えたから。
でも、それは本当に刹那の出来事で、まばたきのうちに、久遠くんはいつも通りの営業スマイルを浮かべていた。
いまの、なんだったのだろう?
単に、わたしの見間違いなら、いいけど……。



