「久遠はイギリスからの帰国子女なんだよな。たしか、おじいさんがイギリス人の、クオーターなんだっけか?」
“久遠彩芭”
と、大きく黒板に書きながら、先生が右側の美少年に確認をとる。
久遠くんは、純粋そうに澄んだ瞳を少し細め、小さくうなずいた。
「ずっと向こうに住んでたってんで、まだちょっと日本語が不自由なところがあるそうだ。ま、でも英語はベラベラだから、テスト前は頼りになると思うぞー」
どっと笑いが起きたので、あわてて同じようにニコニコしておいた。
「あ、そうだ。ただし、期間限定で、年内にはまたイギリスに帰るらしいからな。短い間だが、みんな、そういうことで、よろしく」
「ヨロシクお願いしマース」
イギリスからやって来たという少年が、ぎこちなく、それでも愛想よく挨拶をすると、教室のあちこちから歓声が上がった。
久遠くんのほうも、応えるみたいに全員を見渡し、律儀に何度も頭を下げた。
いいなぁ。
遠い異国の地で、はじめて会う人ばかりの空気に、もうこんなにも溶けこめている。
いいなぁ。
わたしなんかには、きっと、生まれ変わってもできないことだよ。



