人間の脳というのは、高性能だと言われているわりに、ぜんぜん上手く出来ていないと思う。
こんなに全部を忘れているのに、いちばんそうしてしまいたいはずの、柊くんの好きな人の姿と、彼女を見つめる彼の横顔だけが、ばかみたいに、鮮明に、脳裏に焼きついている、なんて。
「誰かに手伝ってもらったりした?」
「あ、ううん、ちょっと時間はかかっちゃったけど、全部ひとりでできたよ」
「ふうん……」
いささか誇らしい気持ちで言ったのに、なぜか、久遠くんは怪訝そうな顔をした。
「あっそ」
そして、吐き捨てるみたいに、そう言った。
なんだか本当に機嫌が悪いみたいだ。
きのう、手伝おうか、と言ってくれた彼の申し出を断ってしまったのが、そんなに気に入らなかったのだろうか。
でも、転校してきて早々に雑用をさせるのは忍びなかったし、放課後どこかに行く用事がありそうな様子だったから、時間を割かせるわけにはいかないと思って。
もちろん、気持ちは嬉しかったのだけど。
ひょっとすると、そのことを、わたしはきのう、伝えそびれていたんだっけな。
「あの、『手伝おうか』って言ってくれたの、すごく嬉しかったよ。ありがとう」
「べつに」



