「ていうか、ななのほうは?」
右側を歩く柊くんが、もうすっかり黒に染まりきった空を見上げながら、思い出したように、唐突に声を上げた。
「なんか、噂の転校生の世話係させられてるらしいって、小耳に挟んだんだけど」
「ええ? それは、なんか、すごい語弊があるような……」
噂の転校生こと、
久遠彩芭くんの顔を、頭に思い浮かべてみる。
あの日から、久遠くんとは結局、毎日いっしょにお昼を食べている。
それに、難しい日本語や、漢字が少し苦手らしい彼に、意味や、読み方を教えたりすることは、たしかに、日常の中でたまにある。
でも、無理に時間を割かれたり、負担をかけられたりすることはないし、わたしが彼に対して何か特別なことをしている、という事実は、ないと思う。
「ななは昔から、優しすぎるところがあるからなぁ。人のこと気にかけるのもいいけど、新学期始まったばっかなんだし、自分のこと、あんま疎かにすんなよ」
柊くんが、いたって何気なく、それでも確かな響きをもった、気遣いの言葉をくれた。
斜め上から降り注いできた優しい音に、胸の真ん中がじんわり温かくなって、それからきゅっと、せまくなる。



