「あっ……、柊くん」
もう何年もいっしょにいるはずなのに、いまだに姿を見るだけで、ときめいてしまう。
柊くんは、どうやらこれまで部活をしていたようで、爽やかな汗を額に光らせていた。
「こんな時間まで残ってたの? めずらしいじゃん」
「あ、うん、教科係の仕事してて」
「え、ひとりで?」
「うん……」
うなずきながら、少し恥ずかしい気持ちになった。
こういうとき、柊くんなら、当たり前に友達に手伝ってもらったりするのだろうな、と思ったから。
新しいクラスで、そうできる友人がひとりもいないことを、柊くんにだけは、なんとなく知られたくなかった。
「そっか、お疲れさん」
「うん、ありがとう。柊くんも、部活お疲れさま」
「ん、ありがと。なな、いまから帰る?」
「うん」
「じゃ、一緒に帰ろう」
思わず、え、と声が漏れる。
でも、彼の耳までは届かなかったようで、柊くんは、硬直しているわたしを不思議そうに見ているだけだった。
「……うん、いっしょに帰る」
思いのほか遅くなったこととか、自分の要領の悪さとか、いろいろなことにしょげていたけど、プラマイゼロどころか、プラスになってしまうのだから、恋はすごい。
柊くんには好きな人がいるとわかっていながら、こうして隣を並んで歩ける現実に、ゲンキンに胸を躍らせてしまえるのだから、恋は怖い。



