「俺が他の誰かに取られそうになって、寂しくて、ビビってたんだろ?」
ちがう、とすぐに言えなかったのは、
ちがう、とも言いきれなかったから。
でも、久遠くんが、どう、とかじゃない。
もしそう見えたのだとしたら、わたしは、わたしがひとりぼっちになるのを心配して、すごく寂しくて、ビビっていたのだ。
100%身勝手な気持ち。
だから、なおのこと、肯定できなかった。
押し黙っていると、今度は目の前に、空の右手がやって来ていた。
「てことで、改めてよろしく、きなこちゃん」
「え、……と」
「握手だよ、握手。ハンド・シェイク。知らない?」
いまのは少しだけからかっているような言い方だった。
多少むっとした顔をしてしまうと、久遠くんは、なぜかからりと笑ったのだった。
「はい、右手。ちょうだい」
おそるおそる、指先で触れてみる。
その瞬間、食べられるみたいにして、右手が捕まってしまった。



