そうだよ。
なんにも、わからない。
なにひとつとして、知らない。
ここで一緒にお昼を食べるようになって一週間が経つけど、学校のことや、授業のこと、クラスメートや先生のことを話してばかりで、わたしたちは、お互いのことをほとんど話さなかった。
だから、わたしは久遠くんのことを、ぜんぜん知らない。
どうしてイギリスからやって来たのかも、
どうして年内には帰ってしまうのかも。
どういうお家で育って、どんな家族がいて、これまで、どんな人生を歩んできたのかも、なんにも知らない。
だから、わかったようなことは、言えない。
べつに、言うつもりもない。
でも、いちクラスメートとして伝えておきたいことなら、ひとつだけあった。
「……ある、よ。意味は、絶対に、ある」
箸を置いて、背筋を伸ばした。
そして、すう、と、少し長く息を吸った。
「来月は、遠足に行くよ。秋には体育祭と文化祭があるし、それが終わったら修学旅行がある。人生のなかで大きなイベントを、久遠くんはこのクラスで過ごすの。きっと、将来、思い出すことがあるはずだよ。そのとき、思い出のなかに“友達”がいなかったら、絶対……寂しい、と、思う」
言いながら、わたしはいま誰にむけて話しているのだろうと、嫌気がさしてくる。
久遠くんに語りかけながら、図らずも不甲斐ない自分自身を責めているようで、なんだか息苦しくなってしまった。



