彼がいま立っている、あの場所が、もどかしいほどに遠く感じる。
いつかのブックカフェでそうだったように、いますぐ隣に寄り添うことができたら、どんなにいいだろう。
きっと、わたしなんか、また、へたくそな演説しかできないだろうけど。
なんの価値もなさそうな、陳腐な言葉しか、かけられないだろうけど。
それでも、誰もいないだだっ広いステージの上で、自分の声のみを響かせ、スポットライトに影を落としている彩芭くんを、ここからただ見上げているよりは、ずっとましだ。
しかし、客席の一部でいるしかないわたしが、どうしようもない歯がゆさを感じているうちに、いつのまにか、彩芭くんは、まっすぐ顔を上げていたのだった。
「でも、これは、悲しいストーリーじゃないよ」
凛とした声だった。
「この学校に来て、ある女の子と出会って、ネガティブだったぼくの考えは一変したんだ。ぼくは、何者でもないんじゃなくて、何者にでもなれるのかもしれないって。だって、そうやって、彼女が言ってくれたから」
いきなり下りてきた薄茶色の瞳と、ばちん、と視線が合う。
「ぼくがいるから、世界は変わっていくんだ――って」
あまりに突然のことにどぎまぎしていると、彩芭くんは、きっと誰にもわからないように、わたしにむけて、ちいさく笑んだ。
「ぼくは、これからも、ありのままの姿でいたいし、そういう自分を愛していたいです。だから、それを教えてくれて、ぼくをこんな場所に立たせてくれた彼女にも、そうであってほしい。ぼくにとっては、彼女こそが、世界を変える存在だから」



