彩芭くんの話をしてくれるときの、いつもの、無邪気で、かわいらしい、恥ずかしがり屋な朝香ちゃんは、どこにもいないように思えた。
かわりにある、どこまでも真っ直ぐなまなざしと、まじめなトーンの声が、彼女の本気さを物語っている。
無意識のうちに、息をのんでしまう。
「どのみち、年内でイギリスに帰っちゃうって言ってたでしょ? だから、いろいろと、絶対に後悔したくないなぁと思って……」
それでも、言葉とは裏腹に、ふいに不安げに濡れながら揺れた瞳に、ひどく胸が締めつけられる感覚がした。
苦しいとも、痛いとも、形容しがたい。
ただ、なぜか、どこかが、どうしようもなく、切ない。
胃のあたりが、チリ、と狭くなる。
だけど、そんなものは、朝香ちゃんを大好きだと思う気持ちに隠れて、ちゃんと認識することができなかった。
「……うん。それなら、絶対に優勝しないとだね」
朝香ちゃんは、本当に、すごいなぁ。
見た目ばかりでなく、中身もまるごと、憧れてしまうところばかりだ。
わたしは、物心ついた頃から柊くんに片想いをしてきたけど、告白しようなんて勇気を持てたことは、一瞬だってなかったな。
「全力で応援しちゃう。ステージも、いちばん前で見てるからね!」
「っ、ありがとう、ななちゃん」
最後にもう一度、これでもかというほど強く抱きしめられる。
すぐに名前を呼ばれて行ってしまった、まぶしくて愛しい後ろ姿を見送ったあとで、わたしも急いで客席のほうへ戻った。



