柊くんもあからさまに狼狽していた。
やはり、女の子の姿をした彩芭くんのことを、彼は好きなのだろう。
それは、あの夜の一瞬で即座に気づいたことだけど、その信憑性は、この数分間のあいだに、どんどん色を濃くしているように思う。
「まあ、とりあえずは謝っとこうかな、いろいろと。びっくりさせて悪かったよ」
「いや、べつに……」
お互いに向きあうようにして立っている、三人の上履きが作り出す三角のなかで、彩芭くんだけが、とても美しく、ずっと笑んでいた。
「そういうわけで、きなこちゃんは、ここで俺が貰っていくね」
言うなり、ぱし、と手首を取られる。
驚いて声を上げたときには、わたしは彩芭くんに引っぱられ、教室に向かって歩きはじめていた。
「ななっ。ミスコン、頑張ってな。最前列で見るから。でも絶対無理すんなよ!」
優しい幼なじみが最後に投げかけてくれた言葉に、歩みを進めながらもふり返りつつ、大きくうなずいて返事をする。
彩芭くんは一度も後ろを見ようとしなかった。
ただ、彼の纏っている繊細なレースが、視界の下のほうで、音もなく、麗しく、たゆたっていた。



