そのやり取りを傍らで眺めながら、もしや幻覚だったのだろうか、とさえ思う。
きのう、いきなり流暢な日本語をしゃべりだして、人の悪い笑顔を浮かべた久遠くんは、ひょっとするとわたしの見間違いだったのかも。
「おかしいなあ……」
ひとりごとのつもりで呟き、首をひねって席についた。
「――なにが、おかしいんだよ」
ひっ、と声を上げそうになりながら、ぎりぎりのところで我慢できたことだけは、褒められてもいい気がする。
反射的に身をよじろうとしたら、久遠くんは「ふり返んなくていーよ」と言った。
そして、ささやく音量で、続けた。
「なあ、きなこちゃん。いまの、ああいうの、囲み取材みたいなの? マジでダルいからさ、きょうから毎日、きなこちゃんがランチタイムつきあってよ」
そう。許可する、のではなく、拒否権がない、のである。
壊れたおもちゃみたいに、ぎこちなく、頭を縦方向に動かしたわたしに、後ろで久遠くんが小さく笑うのが聞こえた。



