あまりのことにパニックになり、「だいじょうぶです」とうわごとのように言いながら、顔の前でぶんぶん手を振りまわしてしまう。
そんな、あやしいわたしにも、彼女は花が咲くように笑いかけてくれたのだった。
「あとね、“朝香”、でいいよ。名前で呼ばれるほうが好きなんだ」
「あ……」
さっき名前で呼びかけようとしてしまったの、ぜんぜん隠せていなかったみたいだ。
「よかったら、わたしも“ななちゃん”って呼んでいい?」
うなずいたのは、許可する、というより、拒否権がない、という感覚だった。
「ななちゃん、これから一年間、よろしくね」
「うん……、ありがとう、朝香ちゃん、よろしくお願いします」
信じられない。
まるで、憧れの芸能人に出くわして、お話してもらっているみたい。
どこまでも、ふわふわ、ぽやぽやした気持ちでいるうちに、いつのまにか担任の先生がやって来て、朝のホームルームの時間となった。
同時に、久遠くんを取り囲んでいたクラスメートたちが、彼に挨拶をしては、それぞれの席に帰っていく。
「うん、ありがとう、またあとで」
そんなふうに返事をしながら、久遠くんは誰に対しても笑顔を絶やさず、いたって穏やかで、とても優しかった。



