「――きなこちゃん、一緒に来て!」
彼が口を開くなり、周囲がざわついたのがわかった。
朝香ちゃんが、お姫様のようにきらびやかな目を少し見開いたのを、横目でかすかに認識できた。
だけど、きっと、この場にいる全員のなかで、わたしがいちばんぎょっとしているに違いない。
いったい、どういうことなの。
なにかを借りに来たのではなく、一緒に来て、って?
そして、なにより、みんながいる前で普通に“きなこちゃん”と呼ばれたことに、動揺を隠しきれない。
「あの……わたしが、行くの?」
「うん、そうだよ」
「えっと、なにかを借りに来たんじゃなくて?」
「うん。だから、そっくりこのまま、貸してもらおうと思って」
なかば強引に手を取られる。
抗うまもなく、彩芭くんはわたしを引っぱったまま、司会進行の体育委員さんのところまで、またたく間に到達してしまった。
「一番乗りですね! では、クラスと所属する組の色、それからお名前を教えてください」
「はいっ、2年1組、白組の、久遠彩芭です」
マイクを通して、ふたりが会話をはじめる。
競技はまだ進行中だけど、グラウンドにいるほとんどの人が、わたしたちに注目していた。



