久遠くん、本当に、すごいなあ。
……じゃなくて。
どうしよう。
席につくどころか、近づくことさえままならない。
それでも、このまま、教室の隅っこをぐるぐる彷徨っているわけにもいかない。
困り果て、途方に暮れていると、あの輪の中心にいる人物と、ふいに目が合った。
久遠くん、だ。
「あ、木原さん」
間髪入れず声をかけられて、びくう、と肩が跳ねてしまう。
その反応に、久遠くんが人知れずキュッと目を細めたのを、目撃したのはきっとわたしだけ……なのだと、思う。
「オハヨ」
それでも、彼の口調やしゃべり方、声なんかは、きのうみんなの前で自己紹介をした時と、何ら変わりはなかった。
優しくて、穏やかで。
そして、ほんの少しだけ、かわいい感じ。
「えと……お、おはよう、ございます、です」
「なにしてるの。こっち、おいでよ」
「え、あ……でも、」
「でも、って? ここ、木原さんの席でしょ」
久遠くんの手が机のむこうから伸びてきたかと思えば、指先で、ちょん、とわたしの席の椅子の背もたれを、軽くつついた。
とたん、そこに座っていた影が勢いよく立ち上がり、
「ああっ、ほんとだねえ! わたしが座っちゃってた!」
なんて言いながら、こげ茶の美しい髪を翻しつつこちらをふり返ったので、心臓が止まるかと思った。



