「もしかして、新しいクラスでなんかあった?」
「あっ、ううん、なんでもないの、ぜんぜん……」
「本当に? ななって意外と強がりなところあるからなぁ」
「……そんなこと、ないよ」
ただの弱虫、
どうしようもなくどんくさいし、救いようのない臆病者で、ドジの、のろま。
自分の嫌いなところを並べたてれば、日が暮れても終わらないので、口にするのはやめておいた。
それに、卑屈で面倒なやつだと思われるのも、本望じゃない。
世界でいちばん優しい柊くんのことを、困らせたくない。
「あ、そうだ」
ひとりで悶々としているわたしのことなど置いてけぼりにするみたいに、柊くんはいきなり顔を上げた。
「そういえば、ななのクラスに転校生が来たんだっけ? たしか、イギリスからの帰国子女かなんかだって」
そして、軽やかにそう言った。
いたって何気ない会話、新学期を迎えた高校生が盛り上がるにはもってこいの話題だというのに、わたしの気分は一気に急降下をはじめてしまった。
「そうなの……、ほんとに、ちょう・素敵な男の子なの……」
「え? なな? 顔と声と台詞が、全部ちぐはぐだけど?」
「うう……気にしないで……」
せめて、柊くんが同じクラスにいてくれたら、よかったのに。
でも、わたし以外の女の子に恋をしている彼と一日中いっしょにいることを想像すると、それもちょっと、いやかなり、つらい気がする。



