もちろん、彼がわたしの懇願になど応じてくれるはずもなく、軽快なしぐさで保存ボタンを押すと、彩芭くんは、フリーズしているわたしを差し置いたまま、とうとうスイーツに手を付けはじめてしまった。
なんという、ひどい人なの。
意地悪にも程がある。
「なあ、食べないの? いらねーなら俺が全部食べとくけど」
「だ、だめっ、です!」
「じゃ、早くしてよ。せっかくの紅茶も冷めちゃうじゃん」
ペースを乱される、とか、調子がくるう、とか。
もはや、そういう次元ではない。
久遠彩芭くんという男の子がいるだけで、いつも、その空間、まるごとすべてが、彼の支配する世界に変わってしまう。
だから、わたしのような平凡な人間は、力を抜いて、身を委ねるしかないのだ。
いろいろと、もう諦めて、おとなしく一口目にかじりついた。
その瞬間、本当にびっくりしてしまって、思わず目を見開く。
「んんっ、このフルーツサンド、すごくおいしい……!」
「だろ? 見た目だけじゃないんだよ」
はじめてのアフタヌーンティーは、どれをとっても信じられないほど美味しくて、比喩じゃなく、何度も頬が落っこちそうになった。
もちろん、マナーなんてなにも知らないから、全部が見よう見まねだ。
でも、彩芭くんが、そんなわたしのことも決してバカにしたりせず、好きなように食べればいいんだよ、と言ってくれたので、かなり緊張もほぐれて、心から楽しむことができたように思う。



