【短編】泣き顔記念日



振られてよかったなんて。


心のどっかで思っているのかもしれないけど。


今の僕は確実に、同じように苦しくて。


だってさ、ほら「兄妹同然」だから。


「うぅ……っ……っ」


でも、君が僕のシャツを強く掴まえるたびに、


君の拠り所に少しはなれているのかなと、


少し嬉しくて。


いや、かなり嬉しくて。



「るい……ありが…と」



ボソッと小さく僕の腕の中でそう言った彼女の頭を優しく撫でる。


そして、きっと。


このかなり大きくて速い心臓の音は。


七瀬にもきっと聞こえてるよね。


聞こえててほしい。


知ってほしい。



「…七瀬が僕の前で泣いたの、初めて」


それが嬉しくて。

誰よりも今、七瀬の1番になれてる気がして。


彼女が少し落ち着いてから、僕は抱きしめるのをやめた。


「…はぁ?バカ。泣いてないし」


まつげをまだ濡らしたまま、彼女はプイッと横を向く。


あーあ。

そんなことをしても、やっぱりただ可愛いだけなのに。


「本当、素直じゃない。今日は七瀬の泣き顔記念日ね」


「ブッ…るい…ネーミングセンスなさ過ぎ!」


七瀬はそう言って、久しぶりに大口を開けて笑った。


これでこそ彼女だ。