自転車をこぎだす前に走り寄って女子が背負っているリュックをつかんで引っ張る。


このままいかせてたまるか。



「えっ、なんすか?あちゃー…見つかっちゃいました?」


「これ、このままにするつもりか?」




よく見なくても、自転車でドミノ倒しを起こした犯人は、俺と同じクラスの女子だった。



2年5組小林若葉。

小さめの身長に丸い顔。

大きな目。

切りそろえられた前髪。

長い黒い髪は太陽の光を浴びて頭に光る輪っかを作っている。



明るく、誰とでも仲良くできるのかいつも彼女の周りには友達の姿が絶えない。





「これをあたし一人で直せと言うんですか。」



「いや言うだろ。倒したの俺見てたし。」



「…でも、限定パンがあたしを待っているんです。ちょっとそこのパン屋なので一瞬見逃してくれませんか。

速攻で買って帰ってくるので…。」



「いや、そもそも校舎外に買いに出たらダメだろ。」



「そんなの言わなきゃわかんないすよ。」



「そういう問題じゃねーだろ。」



「うぅ…見逃してくれたっていいじゃないすか!」



「さっきから見逃せ見逃せって…」



「よし、わかった。あなた様の分もパンを買ってくるので、それで手を打ってください。それでいこう。」



「なに万事解決みたいな顔してんの。なにも解決してないし、俺別にパンいらないし。」



「おいしいから!ね!」



「ダメ。」



「限定パンが売り切れる!」



「知らねーよ。」



「うえぇ…この分からず屋さん!」



「俺も一緒に直すの手伝ってやろうと思ってたけどやめるわ。」




最初から手伝う気なんてさらさらなかったが話の流れで言ってしまった。


小林のテンションに充てられている気がする。



「て、手伝ってくれるの?!君が?!」



まぁ、小林も普段の教室の俺の様子を見ていれば、俺が手伝うなんて思わないだろう。



教室での俺は…



「あの、冷徹、鬼、悪魔の称号を一挙にかっさらっていく一匹ヤンキーの中田くんが?!」



「普通それって本人に言ったらダメなやつじゃねーの。」



「やっべぇ。」


「え、馬鹿なの?」