昼休みが始まると同時に、教室中央一番前の席の主はかけ足でどこかへ行ってしまった。



やはり授業中どうしても視界に入ってくる後姿。


昨日はおろされていた長い黒髪は、今日は一つに結わえられていた。



頭を動かすたびに揺れる馬の尻尾のような髪形に、あれがポニーテールというのかと納得させられた。





「一心不乱に食うのな…」




俺が弁当を食べる様子を見て、土井が一言つぶやいた。


腹が減っている状態で一心不乱に食べてなにが悪い。



むしろ話ばっかりしていてちゃんと昼飯を食えないほうがどうかと思うが。





「中田さー…」




俺が話さないからか、土井が一人でひたすら話しているのを聞き流す。







「たっだいまー。」



「お、今日は早かったねー。限定のは買えたの?」



「んふふ。今日はばっちりよ!今日は豆腐バーグ挟んであるんだってー!しかもブラックペッパー!確実に大当たり!!」





廊下から騒がしく入ってきた小林は片手にパンを持っていた。



昨日俺にくれたあんドーナツが入っていた包みと同じことから、また学校を抜け出して校外に買いに行ったことがわかる。




あの馬鹿、先生に見つかったらどうするつもりなんだろうか。





「中田ー?話聞いてる?」



「聞いてない。」



「…たとえ聞いてなかったとしても正直に答えすぎっしょ。オレが彼女だったらかなり傷ついたぞ今の言葉。」




「別にお前は彼女じゃないからいいだろ。」



「冷たい男だねー。そんなんじゃ彼女できねぇぞー」




「ほしいなんて一言も言ってないだろ。」



「でたでた。そうやって余裕かましやがって。イケメンの余裕か?あ?」



「別にイケメンでもないし、余裕もかましてねぇよ。」



「…何お前、自覚ねぇの?鏡見たことある?」



「は?何言ってんだお前。見たことあるに決まってんだろ。」




「えー…天然なの?なんなの?怖いんだけどこの子。」




「もうお前めんどくせぇ。」