部活の前に感じたいらだちを引きずり、部活中もいつも以上につまらなくなってしまった。
さっさと着替えて帰ろうとカバンの中を漁ると、いつもと違う感触が手に当たった。
それを手に取って取り出すと、中から現れたのは袋に包まれたあんドーナツ。
小林が俺を共犯者にするべく渡してきたあれだ。
渡してきたときの小林の顔を思い出したら、少しいらだちが解消されたのはなぜだろう。
「中田、なにあんドーナツ見つめてんの?食わないの?」
隣のロッカーを使っている同学年の部員が不思議そうにこちらを見てくる。
確かに黙ってあんドーナツを見つめる俺は相当意味不明だろう。
「食わないならくれ!腹減った!」
「だ、ダメだ!これは俺のだ!」
横から手が伸ばされるが、それを思いっきり避けてしまった。
…俺はなにをたかがあんドーナツ一つに必死になっているんだ。
「お、おう。別に嫌なら嫌で無理にとって食いやしねえよ。」
…ちょっと引かれた気がする。

