窓際の前から3番目に座る俺の席から、教室中央の一番前に座る小林の席はよく見える。
今までは何となく視界に入ってくる程度の存在だったが、ここまで馬鹿だと嫌でも目に入ってしまう。
「はい、次の問題、小林。」
数学の授業が始まり、初めのうちはちゃんとノートをとっていた小林が、途中から全くノートをとらずに頬杖をついて黒板を眺めるのみになっていたのにも気づいていた。
「先生。今日のネクタイは犬ですね。」
「それは問題の答えになってないぞ。」
「昨日はペンギンでしたよね。」
「お前には日本語が通じないのか。」
「動物好きなんですか?」
「そうか、通じないんだな。」
「r=6です。」
「急に回線つながる感じなのな。」
小林と数学の渡辺先生のやり取りに周りはどっと沸く。
古文の後藤先生に比べて渡辺先生は年も俺たちに近いし、さわやかな印象のため女子は特に渡辺先生になついている。
その効果なのか、数学の平均点が去年よりも上昇したというのだから、教師とは切ない職業だ。
教え方は絶対に去年の丸山先生の方がうまかった。
しかし丸山先生ははげていた。
所詮は印象勝負といったところか。

