身支度を済ませ、病院に向かった夕陽は、仕事着に着替えると、ナースステーションに向かう。

「…おはようございます」

夕陽の言葉に、その場にいた看護師や医師が挨拶を返してくれる。

間もなくして始まった申し送り。

…それなのに、圭吾が来る気配がない。まだ、大学病院にいるのだろうか?

夕陽はなんだかソワソワして落ち着かない。

それに気づいた看護師長に小言を言われ、ハッとする。

「…ダメダメ。仕事に集中」

夕陽は頬を叩いて、自分を戒めた。

病棟で勤務をしていると、内科の診察室からヘルプの要請。

その矛先は、夕陽。

夕陽は他の看護師に仕事をお願いし、内科の診察室へ。

「…神藤さん、ゴメン、ちょっとこの子見ててくれる?皆それぞれ手が話せなくて」

そう言って診察室の看護師から手渡されたのは、3才くらいの男の子。

母親は高熱のため、点滴中で子供を見ていられないとのこと。

「…ボク、お名前言えるかな?」
「…みずき」

「…1人で待てて偉いねぇ。ママの点滴が終わるまで、遊んでようか?」

夕陽の言葉に、満面の笑みを見せたみずき君。

「…どーしようかな?…ここは、内科だから、小児科から何か借りてこようか」

「…お絵かき」
「…え?」

「…お絵かきする」
「…そっか、じゃあ、紙と、ペン用意するね」

一緒にお絵かきを始めるも、内科は今日はやけに患者さんが多い。

常勤の看護師だけでは大変そうなのは一目瞭然。

「…何か、手伝いましょうか?」

声をかけるも。

「…神藤さんはその子から目を離さないで。その子、落ち着きないから」

…みずき君は、少し問題児らしい。だが、夕陽と一緒にいる間はとても良い子だ。

「…夕陽ちゃん、みずき君から目を離さないでね」
「…はい、ぁ、静先生、どうして?」

「…今日は、圭吾は大学病院で勤務になったから、急きょ俺が内科の診察に駆り出されたんだよ。夕陽ちゃんが来てくれて助かったよ。みずき君、走り回って大変なんだ」

苦笑いした静は、診察に戻った。