「うかうかしてると、俺がかっさらうぞ、夏樹」

「……みんながみんな、お前みたいに自由に想いを伝えられるわけじゃねーんだよ。俺だって、素直になれんなら……とっくにそうしてる」

痛みを堪えるように、歪んだ夏樹君の顔。
梅雨は明けたというのに、君の心の中では涙の雨が降り続いているのではないかと思う。

今の君は笑顔で隠すことも忘れて、そんな悲しげな表情を浮かべているのだ。

そんな顔を見せられると、私の胸はちりちりと焼かれているみたいに、静かに痛む。

夏樹君が辛そうな顔するの、嫌だな。
それを見てるのに耐えられなくなった私は、ほとんど無意識に、人目なんかまったく気にせず、夏樹君の手を握っていた。

「えっ……冬菜……?」

「あ、う……っ」

大丈夫、私がそばにいるよ。
私は夏樹君の前からいなくなったりしない。

だって、君は私が喋れないことを知っても、変わらずにいてくれた、いつでもそばにいてくれた。

君が望むなら、あの日、現代文の時間、悲しくて苦しくて死にそうなほど辛い思いをしていた私を、地獄から連れ出してくれたように、今、君をここから連れ出してあげる。

私だけは、世界中の誰もが君を責めたとしても、味方でいる。

こんな風に、衝動的に行動する勇気が、強い意志が自分の中にあったことに、私自身も驚いた。