春が来たら、桜の花びら降らせてね


「……冬菜の傷が、癒えますように」

「っ……え?」

聞こえたか細い声に、私は隣の夏樹君を見上げる。

そんな夏樹君の横顔は、まるで泣いているようで、先ほどから胸の中で暴れていた切なさが、鋭く突き刺さるような痛みへと変わる。

「冬菜の悲しみが消えるように、俺から雨のプレゼントだ」

こちらを向いた夏樹君の頬に伝う水の跡は、やっぱり涙に見えるのは、気のせいだろうか。

「もう、泣かせない。だから冬菜、俺のためにたくさん笑ってくれ。それだけが救いだよ」

夏樹君の濡れた手が伸ばされて、私は吸い込まれるようにその手を握っていた。

夏樹君の言う救いとはなんなのか、私にはわからない。

だけど、どうか笑ってほしい、私も夏樹君にそう願うよ。

だから、私は繋いでいない方の手を夏樹君の頬に伸ばして、軽くつまむ。

「ふ、ふゆにゃ……?」

笑って、夏樹君。
摘まんだ夏樹君の頬をキュッと持ち上げる。

夏樹君はその意味に気付いたのか、パッチリとした二重の瞳をみるみると見開いた。

そして、「……どうして、お前なんだろうな」と呟く。