「悔しくて、そんな資格ないのにみっともなく泣いた時にな、雨が……降ったんだ」
分厚い灰色の空へ向けられた夏樹君の目が、また遠くなった。
夏樹君にも、みっともなく泣きたくなるようなことがあったんだ。
……なんて、人間だから当たり前だって話だけど、それほどまでに、夏樹君に涙は似合わないのだ。
「そしたらさ、雨なのか涙なのか……境界も曖昧になって、悲しかった気持ちまで、この雨音にかき消されてて……」
夏樹君は、全身で雨を感じるように、そのまま静かに瞳を閉じる。
なぜだろう、そのまつ毛から頬に伝う雫がまるで涙のように見えた。
泣いているように見えて、胸が切ない思いに締め付けられる。
「全てを洗い流してくれるみたいで……許されたような、癒されたような気になったんだよ」
もしかして……。
夏樹君は、私が泣いていたから、その悲しみを和らげるために、外に連れ出してくれたのかもしれない。
この雨と一緒に、悲しみも流れていくようにと。
私も夏樹君と同じように目を閉じて、軽く空を仰ぐ。
この悲しみも、過去の傷もどうか……この雨が連れ去ってくれればいいのに。
そうしたら私は、弱い自分から強い自分に生まれ変われる気がするから。


