春が来たら、桜の花びら降らせてね


「あっ……!」

その先は昇降口の外、ザーザーッ降りしきる、雨の中。

──えぇっ!?
夏樹君、正気なの!?

戸惑いながらも引きずられるようにして走る。

夏樹君は本気だったらしく、当然のごとく雨の中へと突入した。

最初のひと雫が私の頭部に落ちてきたと思ったらすぐ、打ち付けるような雨が髪に、頬に、ワイシャツに染みていく。

そして、数分もしないうちに、私たちは滝修行でもしたみたいにびしょ濡れになった。

「到着!!」

雨音に負けないような大きな声で、夏樹君が私を振り返った。

連れてこられたのは、裏庭のビオトープ。

雨の雫で広がる波紋の激しさに、池の中にいる鮮やかな赤、透き通る漆黒をした鯉たちも、息を潜めて動かない。

「俺さ、雨が好きなんだよ」

肩を並べて隣に立つ夏樹君が、ぽつりと呟いた。

私はそれを意外だなと思いながら聞いていた。

夏樹君って、どちらかというと晴れた日の太陽の下が似合うからだ。

「自分が、どうしようもないヤツだって気づいた時……」

ピチャピチャと、池に跳ね返る水の音。

空というものすごい高さから地面まで落ちてくるゆえの凄まじい雨音の中、夏樹君の声は静かに響いた。