春が来たら、桜の花びら降らせてね


「冬菜……」

みるみると見開かれる夏樹君の瞳。
唇まで落ちてきた水滴はしょっぱくて、そこでようやく気づく。

あぁ私……泣いてるんだと。

「……先生、俺、腹痛いんで保健室行っていいですか?」

私を見つめていた夏樹君は視線を黒板へ向けると、唐突に手を上げてそう言った。

「そ、そう……」

「あと、なんか原田さんも痛いみたいなんで、一緒に抜けまーす」

え、私も抜けるの?
お腹なんか痛くないのにと思いながら、これ以上泣き顔を見られたくなかった私は、教室から出られる口実が出来て、ありがたく思った。

「わ、わかったわ」

すると、先生もさっきのことを気にしてるのか、止めはしなかった。

夏樹君は「行くぞ」と言って、私の手首を掴んで立たせる。そして掴んだ手はそのままに、引っ張るようにして教室の出口へと歩き出した。

その背中を、今日ほど頼もしいと思ったことはない。

ありがとう、夏樹君。
私を……暗闇の世界から連れ出してくれるのはいつも君だった。

夏樹君がくれる優しさに、私はまた、涙を零してしまうのだった。