春が来たら、桜の花びら降らせてね


「佐伯くん、何がいいたいの?」

「話さないんじゃなくて、話せないんじゃないかって、思わねーのかなって、言ったんですよ」

夏樹君……どうしてなの。
みんなの前で私を庇ったりしたら、一緒に変な目で見られるのに。

隣の席に座る夏樹君を見て、私は信じられない気持ちでいっぱいだった。

「原田さんが、話せない?そんなこと聞いてないわよ」

「聞いてない、知らないってのは罪だよな。知らずに言った言葉が、誰かを傷つけてるかもしんねーのに」

まるで、夏樹君自身も経験したみたいに、その言葉には重みがあった。

「俺等からしたら、簡単に忘れられる過去でも、本人とっては、一生を台無しにされるほどの傷になるかもしんねーんだよ」

そう、その傷跡はずっと消えずに残り、ふとした瞬間に蘇って、私を今も苦しめる。

夏樹君にもそんな経験があったのかもしれない、そう思った。

「な、そんなの憶測だわっ」

「決めつけるよりいいと思うけどな。ようは、相手を理解する気があるかどうかってことだろ」

先生に、夏樹君はきっぱり言い返してくれた。

夏樹くん……。
そんな風に言ってくれる人は、今までいなかった。

それがすごく嬉しくて、目が熱くなるとこぼれそうになる涙を必死に堪えながら、私は夏樹君の横顔を見つめる。

その瞳には、自分の言葉への迷いなど一切なく、真っすぐに前を見据えていた。

ただ、私の心を守るために放たれた本心だということがわかって、我慢できずに頬に涙が伝う。